マタイによる福音書1章19節

マタイによる福音書
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† 福音書対観 「イエスの誕生」 マタイ1:18~25

マタイ1:18~25

Matt. 1:19夫ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した。口語訳聖書

† 日本語訳聖書 Matt. 1:19

【漢訳聖書】
Matt. 1:19 其夫約瑟、義人也、不願顯辱之、而欲私休之。

【明治元訳】
Matt. 1:19 夫(をつと)ヨセフ義(ただしき)人(ひと)なる故(ゆゑ)に之(これ)を辱(はづか)しむることを願(このま)ず密(ひそか)に離緣(りえん)せんと思(おも)へり

【大正文語訳】
Matt. 1:19 夫ヨセフは正しき人にして、之を公然(おおやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ。

【ラゲ訳】
Matt. 1:19 夫ヨゼフ義人にして彼を訴ふることを好まざれば、密に之を離別せんと思えり。

【口語訳】
Matt. 1:19 夫ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した。

【新改訳改訂3】
Matt. 1:19 夫のヨセフは正しい人であって、彼女をさらし者にはしたくなかったので、内密に去らせようと決めた。

【新共同訳】
Matt. 1:19 夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。

【バルバロ訳】
Matt. 1:19 夫のヨゼフは正しい人だったので、彼女を公に辱めようとせず、ひそかに離別しようと決心した。

【フランシスコ会訳】
Matt. 1:19 マリアの夫ヨセフは正しい人で、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに離縁しようと決心した。

【日本正教会訳】
Matt. 1:19 其夫イオシフは義人にして、之を顯(あらわ)にせんことを欲せず、私(ひそか)に彼を離さんことを望めり。

【塚本虎二訳】
Matt. 1:19 夫ヨセフはあわれみぶかい人であったので、これを公沙汰にして女を晒し者にすることを好まず、内緒で離縁しようと決心した。

【前田護郎訳】
Matt. 1:19 夫ヨセフは正しい人で、彼女をさらしものにすることを欲せず、ひそかに彼女と別れたく思った。

【永井直治訳】
Matt. 1:19 然るにヨセフ、彼の夫(をつと)は義しき者ながら、公に彼を辱しむることを欲せず、密かにこれを去らんと思へり。

【詳訳聖書】
Matt. 1:19 彼女の[婚約中の]夫ヨセフは、正しい<まっすぐな>人であって、彼女を公にさらしものにする
<恥辱を与える<面目を失わせる>ことを好まないで、そっと<ひそかに>離別する<去らせる<離婚する>ことに決心した。

† 聖書引照 Matt. 1:19

Matt. 1:19 夫ヨセフは正しき人にして、之を公然(おおやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ。

[正しき人]  創世6:9; 詩篇112:4,5; マラ6:20; ルカ2:25; 使徒10:22; テト1:7~9
[之を公然(おおやけ)にする]  創世38:24; レビ20:10; 申命22:20~24; ヨハ8:4,5
[離縁せん]  申命24:1~4; マラ2:16; マル10:4

† ギリシャ語聖書 Matt. 1:19

Stephens 1550 Textus Receptus
ιωσηφ δε ο ανηρ αυτης δικαιος ων και μη θελων αυτην παραδειγματισαι εβουληθη λαθρα απολυσαι αυτην

Scrivener 1894 Textus Receptus
ιωσηφ δε ο ανηρ αυτης δικαιος ων και μη θελων αυτην παραδειγματισαι εβουληθη λαθρα απολυσαι αυτην

Byzantine Majority
ιωσηφ δε ο ανηρ αυτης δικαιος ων και μη θελων αυτην παραδειγματισαι εβουληθη λαθρα απολυσαι αυτην

Alexandrian
ιωσηφ δε ο ανηρ αυτης δικαιος ων και μη θελων αυτην δειγματισαι εβουληθη λαθρα απολυσαι αυτην

Hort and Westcott
ιωσηφ δε ο ανηρ αυτης δικαιος ων και μη θελων αυτην δειγματισαι εβουληθη λαθρα απολυσαι αυτην

† ギリシャ語聖書 品詞色分け

Matt. 1:19

᾽Ιωσὴφ δὲ ὁ ἀνὴρ αὐτῆς, δίκαιος ὢν καὶ μὴ θέλων αὐτὴν δειγματίσαι, ἐβουλήθη λάθρᾳ ἀπολῦσαι αὐτήν.

† ヘブライ語聖書 Matt. 1:19

Matt. 1:19

יוֹסֵף בַּעֲלָהּ, שֶׁהָיָה צַדִּיק וְלֹא רָצָה לְהַצִּיג אוֹתָהּ לְחֶרְפָּה, הֶחְלִיט לְשַׁלֵּחַ אוֹתָהּ בַּסֵּתֶר.

† ラテン語聖書 Matt. 1:19

Latin Vulgate
Matt. 1:19

Ioseph autem vir eius cum esset iustus et nollet eam traducere voluit occulte dimittere eam
Then Joseph, her husband, since he was just and was not willing to hand her over, preferred to send her away secretly.

† 私訳(詳訳)Matt. 1:19

【私訳】 「しかし彼女〔マリヤ〕の夫ヨセフは義しい<正義の、公正な、正当な、神の目から見て正しい、潔白な、神に嘉納される>人であり、彼女〔マリヤ〕を告発する<さらし者にする、暴露する>ことを望まず、内密に<こっそりと、知られずに>離婚しようと<去らせようと、追い出す、解き放つ、解放する、自由にする、清算する>考え<意図し、決心し>た」

† 新約聖書ギリシャ語語句研究

Matt. 1:19

᾽Ιωσὴφ δὲ ὁ ἀνὴρ αὐτῆς, δίκαιος ὢν καὶ μὴ θέλων αὐτὴν δειγματίσαι, ἐβουλήθη λάθρᾳ ἀπολῦσαι αὐτήν.

【しかし】 δὲ  δέ  デ de {deh} (ch 接続詞・完)

1)ところで、しかし、さて、そして 2)しかも、そしてまた、なお、すると、また 3)次に、さらに 4)否、むしろ

【彼女の】ατὐῆς  αὐτός  アウトス autos {ow-tos‘} (npgf3s 代名詞・属女3)

1)彼、彼女、それ(三人称の代名詞) 2)自身で、自分から、自分として(強調用法) 3)同じ同一の 4)まさに、ちょうど

【夫】ἀνρὴ  ἀνήρ  ἀνδρός  アネール anēr {an‘-ayr}  (n-nm-s 名詞・主男単)

1)男、夫、成人、おとな、人間、人、者 2)許嫁の夫

ロマ7:2~3;  Ⅰコリ7:1~16;  エペ5:21~33;  コロ3:18~19;  テト1:6; 2:5;           Ⅰペテ3:1~7

【ヨセフは】᾽Ιωσφὴ  ᾽Ιωσήφ  イオーセーふ  Iōsēph {ee-o-safe‘} (n-nm-s 名詞・主男単)

ヨセフ  ヘブル名 「彼は増し加える」

(イエスの父ヨセフ 職業は「大工」マル6:3)マタ1:16~24;  ルカ1:27; 2:4,16; 3:23; 4:22;  ヨハ1:45; 6:42

【正しい人で】δίκαιος  δίκαιος ディカイオス  dikaios {dik‘-ah-yos} (a–nm-s 形容詞・主男単)

<δίκη 正義

1)正しい、義しい、正義の 2)公平な、公正な、正当な、適正な、役に立つ 3)義人、神の目から見て正しい」 4)真の、本当の 5)罪のない、潔白な 6)神に嘉納される

「δίκαιος   正しい」は元来 「δίκη 正義」を遵守する者の意味で、「δίκη 正義」はギリシャ神話のゼ

ウスとテミスの娘で刑罰と復讐を司る正義の女神「Di,kh ディケー 正義」からきている。

「正しい人 δίκαιος νὢ ディカイオス オーン」は神の義しさに由来し、「δίκαιος νὢ」といえる存在は神だけである。

マタ1:19; 10:41; 13;43,29; 23:35; 27:19;  ルカ1:6,17; 23:47;  ヨハ5:30; 7:24; 17:25;  使徒3:14; 7:52;22:14;  ロマ1:17; 2:13; 5:7,19; 7:12 ガラ3:11;  ヘブ10:38

詳訳聖書 「正しい<まっすぐな>人」

【あった】ὢν  εἰμί エイミ  eimi {i-mee‘} (vppanm-s 分詞・現能主男単)

1)ある、いる、~である、~です、~だ 2)行われる、おこる、生ずる、現れる、来る 3)いる、滞在する、とどまる 4)存在する 5)生きている

【そして】καὶ  καί カイ kai {kahee} (cc 接続詞・等位)

1)~と、~も、そして 2)~さえ、でさえも 3)しかし 4)しかも、それは 5)それでは、それだのに 6)そうすれば、すなわち 7)のみならず、もまた

【彼女を】ατὐὴν  αὐτός  アウトス autos {ow-tos‘}  (npaf3s 代名詞・対女3)

1)彼、彼女、それ(三人称の代名詞) 2)自身で、自分から、自分として(強調用法) 3)同じ同一の 4)まさに、ちょうど

【表ざたにするのを】δειγματίσαι  δειγματίζω  デイグマティゾー  deigmatizō { digue-mat-id‘-zo} (vnaa 不定詞・1アオ能)

<δεῖγμα  例、型、見本、見せしめ < δείκνυμι 見せつける、明らかにする、証明する、告発する、目の前に出してみせる

1)見せつける 2)見せしめにする 3)実例を示す 4)明らかにする、証明する 5)告発する 6)さらし者にする、暴露する

「δειγματίζω デイグマティゾー」は「δεῖγμα  型、見本」から来た言葉。「目の前に出してみせる、さらし者にする」の意味になる。これにあたる英語 disgrace は、「dis 奪う」+「grace 恩寵」で「はず かしめる、汚す、面目をうしなわせる」の意味である。

マタ1:19;  コロ2:15

【望む】θέλων  θέλω  てろー  thelō ethelō {thel‘-o, eth-el‘-o} (vppanm-s 分詞・現能主男単)

1)欲する、望む、願望する、したいと思う、主張する 2)~の気がある、気が向く、用意がある、~しようとする、心に持つ、(~する)つもりである、志す、決意する 3)好む 4)心に持つ 5)惑わす、呪縛する

マタ1:19; 2:18; 5:40; 9:23; 12:38; 13:28; 23:4;  マル3:13; 6:22;  ルカ1:62; 10:29;15:28;  ヨハ5:21; etc.

【ない】μὴ  μή メー  mē {may} (qn 不変化詞・否定)

1)~ない

【ひそかに】λάθρᾳ  λάθρᾳ  らとラ lathra {lath‘-rah} (ab 副詞)

<λαθεῖν 隠れる

1)内密に 2)密かに、秘密に 3)こっそりと、~に知られずに、隠れて 4)小声で

マタ1:19; 2:7;  ヨハ11:28;  使徒16:37

【彼女を】ατήνὐ  αὐτός  アウトス autos {ow-tos‘}  (npaf3s 代名詞・対女3)

1)彼、彼女、それ(三人称の代名詞) 2)自身で、自分から、自分として(強調用法) 3)同じ同一の 4)まさに、ちょうど

【縁を切ろうと】ἀπολσαιῦ  ἀπολύω  アポりゆオー apoluō {ap-ol-oo‘-o} (vnaa 不定詞・1アオ能)

< ἀπό  ~から + λύω 解く、ほどく

1)追い出す、解く、解き放つ、解放する、自由にする、弛める、ほどく 2)離婚する、去らせる、バラバラにする、解散する 3)清算する 4)罪をゆるす、釈放する

マタ1:19; 14:15,22,23; 15:32,39; 27:15,17,21,26;   マル6:36,45; 15:6,9,11,15;  ルカ2:29; 8:38; 9:1,22; ヨハ18:39; 19:10,12;  使徒23:22;  etc.

【決心した】ἐβουλήθη  βούλομαι  ブーろマイ  boulomai {boo‘-lom-ahee} (viao–3s 動詞・直・1アオ・能欠・3単)

<βουλή  意図、たくらみ

1)欲する、望む、願う、するつもりである、しようと思う、~しようと希望する 2)意図する、ある考えを持つ、傾く、考え出す、熟考する、企てる 3)決意する 4)好む、選ぶ

マタ1:19; 11:27;  マル15:15;  ルカ10:22;  ヨハ18:39;  使徒5:28,33; 15:37; 17:20; 18:27; 19:30; 22:30;23:28; 25:22; 27:43 etc.

† 英語訳聖書 Matt. 1:19

King James Version
1:19 Then Joseph her husband, being a just [man], and not willing to make her a publick example, was minded to put her away privily.

American Standard Version
1:19 And Joseph her husband, being a righteous man, and not willing to make her a public example, was minded to put her away privily.

New International Version
1:19 Because Joseph her husband was a righteous man and did not want to expose her to public disgrace, he had in mind to divorce her quietly.

Bible in Basic English
1:19 And Joseph, her husband, being an upright man, and not desiring to make her a public example, had a mind to put her away privately.

Darby’s English Translation
1:19 But Joseph, her husband, being a righteous man, and unwilling to expose her publicly, purposed to have put her away secretly;

Douay Rheims
1:19 Whereupon Joseph her husband, being a just man, and not willing publicly to expose her, was minded to put her away privately.

Noah Webster Bible
1:19 Then Joseph her husband, being a just man, and not willing to make her a public example, purposed to put her away privately.

Weymouth New Testament
1:19 But Joseph her husband, being a kind-hearted man and unwilling publicly to disgrace her, had determined to release her privately from the betrothal.

World English Bible
1:19 Joseph, her husband, being a righteous man, and not willing to make her a public example, intended to put her away secretly.

Young’s Literal Translation
1:19 and Joseph her husband being righteous, and not willing to make her an example, did wish privately to send her away.

Amplified Bible
1:19 And Joseph her [promised] husband, being a just and righteous man and not wanting to expose her publicly to shame, planned to send her away and divorce her quietly.

† 細き聲 聖書研究ノート

<夫ヨセフは正しき人にして、之を公然(おおやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ>

ヨセフは神と人の目から見て「正しい人 δίκαιος ディカイオス」で、義を重んじ、マリヤがヨセフの身におぼえのない妊娠をしたことで悩み、ことを公にしてマリヤの罪を負わせるよりも密かに離縁すべきかと思い悩んだ。

<義人>

ヨセフは「δίκαιος  義人」と呼ばれている。多くの英訳では reighteaus man であるが、Bible in Basic English は

upright man(upright まっすぐに立つ、正しい、正直な、高潔な)「まっすぐな人」とし、Weymouth New Testament では a kind-hearted man(kind-hearted 思いやりのある、情け深い、親切)「kind-heartedの心をもつ人」である。

<義しき者の悩み>

ヨセフの「義しさ δίκαιος ディカイオス」は、妻マリヤを公にし、さらし者にするべきと訴え、同時にそうはさせまいとする。「義しき者 δίκαιος νὢ  ディカイオス オーン」の悩みは深い。この悩みを知らない「義しき者」は偽者である。

塚本虎二訳は「δίκαιος ディカイオス」を「憐れみ深い」とする。「義しき人」は「憐れみ深き人」である。

<義しき者の愛>

申命記22:20~21 によれば、姦淫を犯す者は町の人によって「石で打ち殺される」定めであった。ヨセフがマリヤのことを公にすれば、マリヤは石打の刑に処せられることになる。

ヨセフは妻マリヤの告発を躊躇する。「義しさ」はヨセフを、ぎりぎりの所で踏み止めさせる。「義しき人」は「憐れみの人」でもある。しかし、そのヨセフもことを「ひそかに(隠れて)」行おうとする。それはマリヤへの愛から出たことであったが、マリヤを悲しませることでもあった。「義しき人の愛」も完全ではない。ヨセフの愛が真実を見出すには、「聖霊に」よるしかない。

<公然(おおやけ)にする>

World English Bibleは「公然(おおやけ)にする」を「public example」と訳す。

「example」の語源はラテン語「見本としてとりだす」から来たもので「実例、手本、見せしめ」の意味である。

<離婚>

「密かに λάθρᾳ  らとラ」は「ラセイン  λαθεῖν 隠れる」から来た言葉で「内密に、密かに」を意味する。(大正文語訳は「ひそかに」に「私(ひそかに)」の語をあてる。ヨセフは問題のすべてを「私の内」で解決しようとしていた。)

「縁を切る ἀπολύω  アポりゆオー」は「解き放つ、去らせる、罪を許す、自由にする、離婚する、バラバラにする」の意味がある。日本正教会訳は「私(ひそか)に彼を離さんことを望めり」とする。

ユダヤの法律によれば、婚約者は夫婦と認められ、婚約の解消は「離婚」によってなされるべきものであった。

ヨセフはマリヤを内密に去らせようと決める。マリヤを赦し、自由にすることは、同時にすべてを「バラバラにする」ことだった。離婚はすべてを「バラバラに」してしまう。加えてヨセフの決断は「あなたの中から悪を取り除かねばならない」(申命記22:21)という教えに背くことで、ヨセフもまた責められることになろう。

<密やかなこと>

「ひそかに λάθρᾳ らとラ」は「こっそりと、内密に、知られずに」の意味にくわえて「小声で」の意味もある。密やかなことを語るときは「小声」になる。しかし、大声で「密やかなこと」が図られると、あまりに堂々としていて、むしろ人は疑うことを忘れてしまうところがある。警戒すべきは「ひそひそ声」だけではない。

<オカルト>

「ひそかに λάθρᾳ  ディカイオス」はラテン語 occulte(隠されたもの、隠蔽されたもの)で、「超自然」を意味する英語オカルト occult (目で見、触れて感じることのできないもの)の語源である。

† 心のデボーション

「わが目はかれらのすべての途をみる。みな我にかくるるところなし」 エレミヤ16:17 明治元訳聖書

「わたしの目は彼らのすべての行いを見ているからだ。彼らはわたしの前から隠れることはできない。また、彼らの咎もわたしの目の前から隠されはしない」 新改訳聖書

「密かな計画」

ヨセフは事を密かに運ぼうとする。しかし、神の目は人の密かな計画を御覧になる。

「われ今より新たなる事なんじが未だ知らざりし秘め事をなんじに示さん」イザヤ48:6 明治元訳聖書

密かな計画は、神が「未だ知らざりし秘め事」を示されるまでは、進めてはいけない。

(†心のデボーション00818)

† 心のデボーション

「夫ヨセフは正しき人にして、之を公然(おおやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ」 マタイ1:19 大正文語訳聖書

「夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した」 新共同訳聖書

「ヨセフの苦悩」

ヨセフはマリヤを力で征服しようとしない。女性としてのマリヤを、男性としての自分と同一の位置に置く。ヨセフの苦悩はそこから生じたものである。

男性は常に男性的論理から女性を征服し、支配しようとする。しかし、それは決して真の男性的な行為とは言えない。

(†心のデボーション00822)

† 心のデボーション

「之を辱(はづか)しむることを願(このま)ず」 マタイ1:19 明治元訳聖聖書

「マリアのことを表ざたにするのを望まず」 新共同訳聖書

「恩寵を奪う」

日本では江戸時代に不義密通等を犯した男女を人通りの多い場所に罪状を書いた高札と共にござの上に座らせ、長時間放置して通行人の眼にさらした。公に恥を与えることが何よりも罰であった。

明治元訳新約全書は「彼女〔マリヤ〕を告発する δειγματίζωd デイグマティゾー」を「之を辱しむること」と訳した。ギリシャ語「δειγματίζω デイグマティゾー」は「目の前に出してみせる」ことである。英語 disgrace は、「dis 奪う」+「grace 恩寵」で、「はずかしめる、汚す、面目をうしなわせる」は「恩寵を奪う」ことである。

人の目にさらされることは、日本文化の中で最も恐るべき刑である。「生き恥をさらす」のであれば死を望むだろう。しかし、その反面、世間に知られないなら、何事にも耐えていける暗い側面を生み出した。人に知られさえしなければよいとするのはこの思考の過った帰結である。

神はすべてを人の目にさらされる方ではない。神が人の目にさらされないことは、魂の内にとどめよ。それは魂の営みとして負うべきものである。

(†心のデボーション00832)

† 心のデボーション

「密(ひそか)に離緣(りえん)せんと思(おも)へり」 マタイ1:19 明治元訳聖書

「マリアのことを表ざたにするのを望まず」 新共同訳聖書

「万事休す」

「密(ひそか)に離緣(りえん)せんと思(おも)へり」は漢訳聖書で「而欲私休之」とある。「私(密かに)之を「休せんと」「欲す(思えり)」である。

「休」は「休む、憩う」の意味ではなく、「万事休す」の「終わらせる、見捨てる」の意味である。ヨセフはマリヤのことで、もうおしまいだ、「万事休す」というところに追い込まれていた。

そこから祈りが始まる。

(†心のデボーション00838)

† 心のデボーション

「密(ひそか)に離緣(りえん)せんと思(おも)へり」 マタイ1:19 明治元訳聖書

「マリアのことを表ざたにするのを望まず」 新共同訳聖書

「密(ひそか)に」

「λάθρᾳ 密(ひそか)に」は大正文語訳聖書では「私(ひそか)に」である。「私」という字は 禾(作物)+ム(音符)で「収穫物を細分して自分のだけをかかえこむ」ことで、「個人的に、こっそりと」の意味にも用いる。

ヨセフはマリヤの問題をバラバラに細分し、そのなかから自分のものだけをかかえこみ、こっそりと処理しようとしたのである。「私」がでると、問題は全体性を失ってしまう。

(†心のデボーション00840)

† 心のデボーション

「之を辱(はづか)しむることを願(このま)ず」 マタイ1:19 明治元訳聖書

「マリアのことを表ざたにするのを望まず」 新共同訳聖書

「さらしもの」

ヨセフは妻マリヤを「さらしもの」にしたくなかった。英訳で「さらしもの」は public example 「見本、手本、前例、みせしめ」である。

「さらしもの」には「一罰百戒」「頂門の一針」など必要以上の罰が与えられるが、その効果は思うほどでない。「さらしもの」にされた者の恨みは強い。

(†心のデボーション00853)

† 細き聲 説教

「正しい人ヨセフ」

「夫ヨセフは正しき人にして、之を公然(おおやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ」 マタイ1:19 大正文語訳聖書

「夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した」 新共同訳聖書

ヨセフは婚約者マリヤのことでふさぎ込んでいた。

ヨセフとマリヤは婚約していた。ユダヤの習慣では婚約は事実上の結婚を意味し、二人は一緒に暮らすことができた。結婚は婚約から一年後に祝宴というかたちで祝われた。

ヨセフとマリヤは一緒に生活しながら婚宴の支度をすすめていたのである。

そのマリヤが妊娠を告げたのだ。そのこと自体に問題はなかった。婚約中に子どもが生まれることはよくあることだし、子どもの誕生は喜びの知らせだった。しかし、マリヤの妊娠はマリヤにもヨセフにも「身に覚えのないこと」(ルカ1:34)だったのである。

それに加えて、マリヤは「聖霊によって身重になった」とヨセフに告げたのだ。ヨセフは驚き、そして戸惑った。

マリヤは天使ガブリエルが自分を「恵まれた方」と祝福し、「聖霊が臨み、いと高き方の力におおわれて」みごもり、男の子を産む。その名はイエスであり、「いと高き方の子、聖なる者、神の子」と呼ばれる、と御告げがあったというのだ。(ルカ1:28~35)

マリヤは多くを語らなかった。その身に何が起こったのか、マリヤ自身にも説明できることではなかったからである。マリヤは神の言葉を自身の内に宿し、日々育っていくいのちとして自分に抱えていた。その静かな確信にヨセフは反論する力を失うのだった。

ヨセフは「正しい人、義人」と呼ばれていた。

「義人」は、多くの英訳では reighteaus man であるが、Bible in Basic English はupright man(upright まっすぐに立つ、正しい、正直な、高潔な)「まっすぐな人」とし、Weymouth New Testament では a kind-hearted man (kind-hearted 思いやりのある、情け深い、親切)「kind-heartedの心をもつ人」である。

ヨセフは「まっすぐな人」であるとともに「思いやりのある人」だった。

ヨセフの悩みはマリヤのことが公になれば、マリヤは姦淫の罪を犯した者として裁きにかけられることにあった。

申命記22:20~21によれば、姦淫を犯す者は町の人によって「石で打ち殺される」定めであった。ヨセフがマリヤのことを公にすれば、マリヤは石打の刑に処せられることになる。

ヨセフはマリヤの告発を躊躇した。ヨセフの「義しさ」はぎりぎりの所で踏み止めさせた。

ヨセフは、ことを「ひそかに(隠れて)」行おうと考える。マリヤを「さらし者」にしないために「内密に離婚しよう」と考えたのである。

それはマリヤへの愛から出たことであったが、マリヤを悲しませることでもあった。

「密かに λάθρᾳ  らとラ」は「ラセイン λαθεῖν 隠れる」から来た言葉で「内密に、密かに」を意味する。(大正文語訳は「ひそかに」に「私(ひそかに)」の語をあてる。ヨセフは問題のすべてを「私の内」で解決しようとしていた。)

ユダヤの法律によれば、婚約者は夫婦と認められ、婚約の解消は「離婚」によってなされるべきものであった。

ヨセフはマリヤを内密に去らせ、自由にすることは、同時にすべてを「バラバラにする」ことだった。離婚はすべてを「バラバラに」してしまう。ヨセフの決断は「あなたの中から悪を取り除かねばならない」(申命記22:21)という教えに背くことで、ヨセフもまた責められることになる。

ヨセフは「マリヤをひそかに(隠れて)去らせる」と心に決めた。しかし、ヨセフのうちになお彼を押しとどめるものがあり、決断を実行することができなかった。ヨセフは「これらのことを思いめぐらせ」ていた。

「義しき人の愛」も完全ではない。自分の「正しさ」によらずにヨセフの愛が真実を見出すのは、マリヤがそうであったように「聖霊の力による」のである。

(皆川誠)

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