<2026.3.15>
陽だまりの 春や茣蓙敷き 芋を割る
春の雨 音なく降りて 虫動く
揚げ雲雀 靑に色染め 空に鳴く この聲あるを やすしとぞ見つ
深海の 龍宮の使ひの 立ち泳ぐ 銀のからだに 鳴り響く洋琴
<2026.3.8>
姿なく おのれここにと 不如帰
二枚葉の 向き合ふ仲や 色淡し
いにしへの 歌もち床に 伏し返り 伏し返しつつ 思ふ人の世
石斧を 握ればなじむ 畑中の いにしへ人よ われに安らへ

<2026.3.1>
人一人 あてもなき世の 水仙花
ただひとつ ならば花まで 蕗の薹
あたたかき 芋のかけらに 有難し 冷へゆく身体に ありし身なれば
鼻歌と いふもの絶へて 久しきを 老いのいのちの 唄と思ふに
<2026.2.22>
再会を いきなり告げて 春の息
春がきて シモーヌ・ヴェーユに 遭いに行く
緣石を 机となして 羊皮紙に 刀を當てる 緋の修道士
各各に 聲あるごとく 書架に聞く 交はす言葉の 海の小波

<2026.2.15>
蕪漬けや 仕舞いの菜に いちに枚
残雪や 氷踏みゆく 音の朝
一片の 文したためる 幸ぞ 今生きてあらねば そもなき今を
老いの背を 照らして温し 冷へし身を 包むがごとく 抱くがごとく
<2026.2.8>
何もかも 今は埋めて 雪の下
この下に 道あらざるや 雪積もる
降りこめて 嬉しともなす 初雪の 白きかぶりは 枝にも重し
早朝に 起きるわがため 順番に 着替へを置きて 妻は眠むかも

<2026.2.1>
寒月は 孤高にあらず わが見れば
寒き夜 お茶一杯の 安堵かな
ひと声を 残して去れる 冬鳥の 柿の梢は 跳ねて鋭し
雪原の 風吹く夜に 渇きたる 魂の息吹を もろ手に包む
<2026.1.25>
かくあれと 窓に射しこむ 冬日和
静かさに 白く透けたる 昼の月
老いの身を 影にうつして 月光は われを照らせり われが今をも
一月の 思いを綴る 夢に入る 時の儀式を 終と思はず

<2026.1.18>
寒柝の 打ち損じたる 寒さかな
白鳥の 音なく寄りて 多々良沼
去年の暮 家に届きし シクラメン ややにも高き 棚に置き見つ
冬日射す 窓に身を寄せ 恙なき 日の照らさるる われもありなむ
<2026.1.11>
ぬくもりを こよなく愛し 初雀
弾初や しどろもどろも 新しく
元日に ほがらに笑う 妻ありて 貧にも耐へし 背中の丸みは
夜の明けし 空は見つれど この朝を 限りと見れば 明るきを見つ

コメント