<2025.8.24>
ひとしきり 人の話や 冷し瓜
甘藷の 蔓返し返しつ 野良回り
巡礼の 千里の道を ゆくごとき 祈りの声か 野を切る風か
背後から そっと近づく 影のごと 湿気を含む 風の入る窓
<2025.8.3>
百合立ちて 庭のかたちを 変へにけり
とりあへず 書架に這はせり 蝉の殻
拙なくも 鞠つきたりし 幼な日を 互いに伝ふ 妻とわれとは
薬師寺の 山門赤く 沈みゐし 奈良の都は ひたに遠しも

<2025.7.27>
作法なく かぶりつきたし 焼なすび
閑古鳥 鳴きて一羽の 天下かな
いにしへの 山並み遠く かすみゐる うまし国にぞ われは生まれし
何をもて おのがいのちと なすべしや 黙し野に咲く 花をし見れば
<2025.7.20>
水やりて 外人のみの 端居かな
青柿の 幾つを落とし 風の止む
へばりつく 芝を剥がして 石敷きて 我が家は少し 夏に備へす
明けの月 消ゆるが前の 静けさを 身の羽ばたきと 見しか飛ぶ鳥

<2025.7.13>
草取りや 妻には妻の 仕上げ跡
去年に見し 蝦蟇には会へず 夏の畑
野の花の 夜の備へに くらべなき われが眠りの 浅きを思ふ
朝まだき 起きゐる人の 息遣ひ 見へずなりとも 籠れる屋並
<2025.7.6>
そこまでを 隠すか妻の 夏帽子
蟻急ぐ 畑の乾きや 炎天下
ひとつ詠み またひとつ詠みする 言の葉の 出でまた消へる 宿りなきさま
明日の日に 各々なさむ ことどもを 確かめ生きる 老いの一日
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