<2025.6.22>
つくりおく 歌もなくなり 梅雨深し
草を引く 妻畑中に 茄子の花
色赤く 夏を季節と 咲く花の 内にも秘めし 思ひを告げつ
老いの日は 日日新たなり 寿ぎの 今日のいのちを 人は舞ふなり
<2025.6.15>
草取りや 野太きミミズ 身を縮む
茄子洗ふ 妻が手の中 水撥ねる
長雨に 色濃く咲ける 紫陽花に 離れて暮らす 君をし思ふ
揚雲雀 嬉しき声に 鳴きさはぐ 産まれし子らを わが子と告げて

<2025.6.8>
あぢさゐに 色添へられし 我が家かな
炎帝に なほいくらかの 情けあり
在ることも なきがごとくに 小さきを 神何故に われを求めし
六月に 冷たき雨は 一日を 音なく降りて 思いを鎮む
<2025.6.1>
夏めくや 座布の模様を 摘む赤子
六月入り 人を待つ間の 発句かな
梅雨寒に 衣かさねつ 季の変はる その日その日の 侘びの仮庵
幸せは 何かと妻は 言問へる 茶を飲み過ごす 雨間の三時

<2025.5.25>
包丁で キャベツの蟲を 落とす妻
人入るを やがて拒める 芋の蔓
完璧な 等間隔に 玉葱の 頭の並ぶ 家庭菜園
縁石に 眺める庭に 山並の 影薄ければ 峰はかり難し
<2025.5.18>
芍薬と 定めし壺を 洗ひけり
虎の尾に 水くれはじむ 聖五月
五月雨に 濡れて菜の葉の 柔らかき 食むだけ摘める 竹編みの籠
貧しきを さがとは為して 庭の菜を 採りて皿もる 日日をわれ生く

<2025.5.11>
籠枕 かすかに人の 匂いして
鎌忘れ 蕗引きちぎる 帰り道
菜をもちて 懐かし友の 声高く 茶を飲み過ごし 菜種梅雨明く
はえて今鳴 きつ飛び交ふ 若鳥の 晴れがましきを 寿ぐがごと
<2025.5.4>
茗荷の芽 つんつん出でて 塀の際
春宵に 早めの風呂を あがりたる
「見て見て」と 棚に活けらる 一輪の 花を指さす 妻の横顔
味噌汁の 味噌の香りの 立つ朝に 今日を生きむと 思ふわれかも

<2025.4.27>
見送りて 見るにほど良き 残花かな
深い意味 なしとはいへど 春の夢
人待ちて 少し咳して 深深と 息吸いをれる 時をし思ふ
ふるさとを 詠める歌あり 懐かしき 薄明け頃の われが故郷
<2025.4.20>
あれこれと 妻の発句に 春の夜
春雷や あつといふ間の 仲直り
珈琲と レトロな時を 過ごしをり ものみな黙す 静けさのなか
散る時は 全花散るべき 櫻木に 散らぬ花あり ひとつ葉の陰

<2025.4.13>
珈琲を 少し濃くして 花曇り
引く波に 妻と拾へり 桜貝
凄まじき 屋根打つ音の 一分を 激しき春は われを通過す
群れなして 鳥は飛びけり 春の日は つがひ求むる 時ぞ短し
<2025.4.6>
捨て大根 あらぬかたちに 花開く
花冷へや 貸出図書を 抱へ持つ
目を閉じて 耳傾けて 妻の歌 思ひにとどむ 優し心根
茶の湯気の 静かに立つを 諸の手に 包みてもてる 春の日充ちる
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