<2024.12.15>
百舌鳥 来ぬとさみしき 空や月一つ
残菊や ひととき語る 声高し
人来れば 近寄る池の おしどりに 鯉黒黒と 行方を塞ぐ
まれに来て 慣れし庭ごと 遊びゐる 雀去るまで 隠れ見るかも
<2024.12.8>
剪定の 鋏のあとや 地虫鳴く
よく見れば 地に落ちたりし 桐一葉
入院の 報あり友に 約束の 菜束はままに 萎れつつ午後
影薄く 日だまり飛べり 蜆蝶 この世の淵を 出でつ戻りつ
<2024.12.1>
ひと仕事 終はりて庭の けふの月
仰臥して 目薬させり 荻の風
聖日の 午後の明るき 食卓に 昼餉炒める 音を聞きつつ
食パンは 焼いてと云へり トーストと 云はず昭和の 初期の男は
<2024.11.24>
里芋の 根をむしりとる 日向かな
柿の葉の 落ちて色づく 庭の端
薄紙に 一筆引きて 絹糸の ごときが月を とかす夕暮
庭花に きれいですねと 云ふ妻に 一花の種を くれし散歩路
<2024.11.17>
うてなつく 団栗うれし 坂の道
全山と いはず一樹の 薄紅葉
カーテンを 引きつ暮れ行く 夕暮れに 庭に花見る 妻を認めし
入日射す 窓の枠見つ 夕餉には バターロールと 椀の味噌汁
<2024.11.10>
自然薯や 掘る男らの たわいなき
とる人の なき柿の木の たわわなる
種とりの 種蒔き終へて 夕闇に 月しばらくを 眺めゐし空
利根川の 河原の土手に 手をとりて 空を見たしと 妻は言うかも
<2024.11.3>
今夜にも 日延べの花火 夕月夜
芋蔓の 土に根づくや 秋新芽
秋雨の 音激しきを ひとり聞く 外出先の 妻を思ひつ
古家を ままに住みきて 棲みゆかむ 傷むがままに 生きし身なれば
<2024.10.27>
木守りと いへど残せぬ 熟柿かな
日が落ちて 空の広さや 百舌鳥鳴かず
わけもなく ひたに黙して いたき日に 遠くに子らの 声を拾ひつ
外におきて 淡き光は 満月の 部屋に戻りて 窓に寄り見つ
<2024.10.20>
満月の 原に花させ 枯尾花
陰干しの 菊の枕や 祖母の夢
コロコロの 棒持ち妻は 本を読む われが周囲を めぐりてゆける
身の丈を 見せず隠れし 青虫の キャベツにあけし 大穴や如何
<2024.10.13>
嬉しさは なんじゃもんじゃの 芋煮かな
鳴砂を ゆるく踏み来し 秋の海
いくらかの 人を運びし 終電の しずかに停まる ホーム停位置
もの安く 売るとふ店に わずかなる 食を選べる 老いし人らも
<2024.10.6>
秋服や しまい忘れし 滲みひとつ
摘まむには 小さき若菜 秋の雨
御言葉を 書き写しゐる 妻の手の 使い古した ちびた鉛筆
秋の雨 音なく降りて 朝明けの 水滴れる菜の 葉の青し
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