<2023.6.25>
こはごはと 竹に垂らして 蛇の衣
しばらくを がくあぢさゐに 過ごしけり
日めくりに 日のあれこれを 書き記す せねば忘れる 八十路吉日(道子)
つらつらと 眺め眺めて かしこさの 一つも出でず あぢさゐの花
雨垂れの 音の変はりを 枕辺に 聞きつ眠れる われは幼し
<2023.6.18>
田を植ゑし 泥のわだちの 色白し
このあたり 桑の実ありし 道の端
分かってる 気負いすぎなの でも今は 苦しませてね もう少し(道子)
書斎にゐ かすかに響く 賛美歌に 低く合はせる 仕事のあはひ
寝るわれの 足に薬を 塗る妻の 指の動きを 夢な忘れそ
<2023.6.11>
夜の間に 植ゑしごとくに 藜生う
あぢさゐに 空奪はるる 空き家かな
パソコンの 不具合憂う 夫の声 幾度越えし 老いの坂道(道子)
芍薬の 花に添ふべき 言の葉の 無きがわれにも 応へ美し
立ちしまま 湯を飲む妻の 横顔に 思案のあるを 脇に立ち見つ
<2023.6.4>
初蚊にも 刺すがままには せず闇夜
夏めける 隣の孫の 声高し
軒に来て 休むもなくに 飛ぶすずめ 姿とどめし われを忘るな
年寄りの 足の運びに わがなりて 正せぬままに 歩く畦道
<2023.5.28>
御言葉の 意味の深さや 青葉雨
草場脇 摘むに少なく 生へる蕗
君なくば 今の我なし 野の草を 指さし教う 君が横顔(道子)
歌詠めば 右往左往の 言の葉の 行方を知らず 薄月の下
芍薬の 終はりの花を 部屋に置く 過ぎゆく時を とどめおくごと
<2023.5.21>
これほどに 静かでよいか 青葉雨
珈琲を 薄目に淹れる 五月かな
ありがとう お願いしますと 言うことの 増えしこの頃 ゆっくり行こう(道子)
狭庭を ここぞと決めし 野苺の 物慎ましく 延ばす匍匐枝
幼名呼ぶ 童のごとき 妻なりき 応とこたへし 幼われなる
<2023.5.14>
明日葉や 季節を探る 糸の季語
ふたり喰む 筋ばかりなる 山の蕗
対岸に しばし遊びて 黄の旗を 振りて頼める 利根の渡し場(道子)
わが足の 爪の硬さに 両の手を 添へて力める 妻のいる日日
この年も 二羽の燕が 来たといふ 妻の指さす 空を仰ぎつ
<2023.5.7>
爪を切る 音より静か つばめ飛ぶ
新緑や 古家の屋根に なじみをり
この年も 又巣ごもりの 燕きて 窓に一瞬 影おきて飛ぶ(道子)
瑠璃の色 宿して青き 紫陽花の 花芯の先に 子どもがひとり
修復を せぬかと問へる 若者が 訪れ止まぬ 家にわが棲む
<2023.4.30>
瓜苗を 移植のへらに 一つずつ
風除けの 塔立ち並ぶ 茄子の畑
目の前の 畑は家に 変りゆき 四季のめぐりも 新たに見ゆる(道子)
馬鈴薯の 花の蕾も 早や出でて 妻と草引く 四月末日
新しき 歌詠みをれば 日常の 神の真中に われは 居しかも
<2023.4.23>
穢れ無き 朝の目覚めや 紋白蝶
春眠の ごとくに時を 過ごしけり
子らすでに アイドルなりき 人の目を 集めて過ぎる 春の散歩路(道子)
春の蚊の ふはふは飛びて 消え入れる 隙間あれこそ 打つ手空しも
背後から 近づき立てば 妻知らず 驚くさまを 日にも幾度
<2023.4.16>
うぐひすや 聞かねば出でぬ 景色かな
日のあたる 草に黒猫 忘れ霜
あとになり 先になりして 飛ぶ蝶の ごとくに歩み 八十路に入れり(道子)
病院の 検査を聞きて 来し妻は 少し熱めの ココアを淹れる
白蝶が 二頭先ゆく 利根川の 堤の坂に 菜の花の咲く
<2023.4.9>
風を待つ 穂絮の玉や 通学路
これ知るや こごみを持ちし 人の問ふ
菜花咲き 風あたたかく 香る利根 又ここに立ち 君とうた詠む(道子)
見る人の なき道端に 咲く花の 構へなきさま ひとつ眺めな
バラ園の クリスマスローズの 咲く道を しばらく歩く 妻とゆつくり
<2023.4.2>
文殻の 句を読みとけり 花の雨
蜆蝶 みつけし妻の 指の先
瘦せすぎの 我の悩みに 「食べよ」と言う 直なことばは 心に痛し(道子)
デパートの ハンバーガーを 二個買ひて 妻と向き合ふ 昼食テーブル
菜の花に 飛ぶユスリガの 一群れを 手に払ひつつ 老いし人歩む
コメント
皆川先生からいただいたメール中,写真に少しコメントをいただきました。”There is a difference”の写真のことでしょうかね。私もBONDIで食事が出てくる前に笑わせていただきました。その思い出の一枚です。
ところで,俳句と短歌のページで今月(2023年4月)からの見出しに使った写真に対して,キャプション(説明文)を入れなかったのですが,これは,「ヴェッキオ橋 Ponte Vecchio(古い橋の意味), Firenze/Italy」です。Wikipedia によれば,最初はローマ時代にここに橋が建設され,その後,数度も洪水で流され,現在のものは1345年に再建されたそうです。この橋の上には,宝石商,アクセサリーショップが所狭しと並んでいて,ちょっとワクワク,ドキドキしながら散歩をするようなところです。
ヴェッキオ橋の再建が1345年ということですから、678年の間アルノ川に架かっていることになります。この橋は度重なる戦禍にも耐えたようで、「古い橋」という呼び名には独特な趣をもった響きが感じられます。私は畑から出てきた縄文時代の石器を持っているのですが、ときどき手に握って時の経過を感じています。「古い橋」は、川のむこうとこちらばかりでなく、過去と現代を結んでくれる橋でもあるのでしょう。よくみると写真には橋を歩く人の姿が見えます。世界中から来た人たちなのでしょう。皆川