ぜにあおい

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旧約聖書ヨブ記30:4に「マッルーアハ」と呼ばれる植物があります。

「彼らは、ぜにあおいおよび灌木の葉を摘み、/れだまの根をもって身を暖める。」 ヨブ記30:4 口語訳聖書

口語訳聖書は「ぜにあおい」と訳しますが、他の聖書では違った名の訳になっています。

「彼らはやぶの中のおかひじきを摘み、えにしだの根を彼らの食物とする。」 新改訳聖書

「あかざの葉を摘み/れだまの根を食糧としていた。」 新共同訳聖書

こうしてみますと、「マッルーアハ」は「ぜにあおい」、「おかひじき」、「あかざの葉」と聖書によっていくつかの名に翻訳されていることがわかります。

「ぜにあおい」、「おかひじき」、「あかざの葉」はそれぞれ違った植物なので、本稿ではそれぞれの植物を見ておきたいと思います。

ぜにあおい

「ぜにあおい」は「銭葵 学名Malva sylvestris var. mauritiana」で、草丈60~150cmの多年草で地中海沿岸が原産です。日本には江戸時代に鑑賞用として渡来し、帰化種として定着し春から夏にかけて野原に赤紫の花を見ることができます。花の大きさが一文銭くらいであることから「銭葵」の名がついたのだそうです。

「ぜにあおい」はハーブティーとして楽しまれていますが、葉が食用とされることは定かではありません。

ヨブ記30:4に「マッルーアハ」が「ぜにあおい」であるとすれば、普通には食べない野の草を摘んで食べる「窮状の時の食物」であったのかもしれません。

おかひじき

「おかひじき」はアカザ科オカヒジキ属の一年草で、学名Salsila spda L.です。葉が海藻のヒジキに似ていることからその名があります。日本では「水松菜(みるな)」とも呼ばれ各地の海岸に自生していたのですが、近年に数が減り、絶滅の危機にあります。

若葉を茹でて食べることができます。

Salsilaは「塩辛い」の意味で、塩分の多い沼地にも生える丈夫な草で、死海の沿岸にも自生する貴重な野草でした。人々はこれを茹でて食べたり、焼いたあとに残る灰を水に溶いて灰汁として利用しました。(エレミヤ2:22;  マラキ3:2)

「おかひじき」には虫がつかない無農薬野菜としても知られています。東北地方では栽培されたものが店頭にならぶとそうです。

あかざの葉

「あかざの葉」と訳されたのは「ハマアカザ」は日本では、草丈40~60cmのアカザ科の一年草で、塩分濃度の海岸にも自生します。細長い三角状の葉をもち、食べられます。

ヨブ記30:4の「マッルーアハ」として訳された「ハマアカザ」は多年生の3mにもなる灌木で白銀色の葉があり、死海の岸に自生しています。(「新聖書大辞典」)

ヨブ記30:4に「マッルーアハ」は、「ぜにあおい」、「おかひじき」、「あかざの葉」のどれであっても、死海周辺の塩分の濃い土地にも自生するアカザ科の植物であったようです。

「マッルーアハ」は「荒れ果てた廃墟の暗闇で砂漠を食べる」ような欠乏と飢饉のなかにある見捨てられた人々が摘んだ苦悩の中の食べ物でした。(ヨブ記30:3~4)ヨブはそのような人間からもあざけりの歌となり、笑い種になったと語るのです。(ヨブ記30:9)

苦悩の時に涙とともに摘む野の草なのです。

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