「すべりひゆ」は種などまかなくても野に勝手に生えてくる夏草です。私の畑にもよく芽をだします。放置していると赤紫色の茎をのばして地を這い、団扇状に広がります。見つけ次第退治しなければならない厄介な憎まれものにすぎません。
しかし、「すべりひゆ」は多肉植物で立派に食べられます。酸味があり、茹でるとぬめりが出る独特な食感があります。
日本には茹でて辛子醤油でいただく地方があるといいます。夏に収穫して干して保存食料とすることもできるそうです。
解熱、解毒、虫毒などの薬効もあり、虫刺されに葉をすりこむなど有効ですし、利尿作用もあり、健康食品としても知られているのです。
「ポーチュラカ」は「花すべりひゆ」のことで、白や黄、桃色、薄紅色など多彩な花で親しまれています。
畑では天敵扱いされる「すべりひゆ」ですが、意外と役に立つ「いい植物」なのですね。
中東では生や炒めてサラダにして食べる地方もあるそうです。
聖書の中の「すべりひゆ」
聖書にはたった一カ所、ヨブ記に「すべりひゆ」の名が出てきます。
「味のない物は塩がなくて食べられようか。すべりひゆのしるは味があろうか。」 ヨブ6:6 口語聖書
新改訳聖書や新共同訳聖書では味のない食べ物として、「卵のしろみ」と訳されていますが、口語訳聖書は「すべりひゆの汁」と訳しています。
ヘブライ語「ハルラムート」は「ハラムター(牛の舌)」と呼ばれる植物であるところから「スベリヒユ」との説があるのです。
「卵のしろみ」は「ハルラムート」を「卵の白身の粘りけ」と解するところから来ています。
いずれにしても「すべりひゆの汁」は「卵の白身」のようにねばねばして、塩がなければ食べられないスープでした。そこから、「すべりひゆの汁」は、耐え難い貧しさの食卓にのせられる「貧者の食べ物」とされたのです。
豊かな時代
私も畑ではすっかり邪魔者扱いする「すべりひゆ」ですが、聖書の時代には食卓にのせる一皿になったのです。
ちなみに、現代の日本人の家庭で食べられる料理の味は、昔の大名の食膳にだされる味のレベルだそうです。大名が私たちのお気に入りのラーメン屋に行けば、その味に心底感動することでしょう。
私たちは恵まれた時代に生きているわけですが、その豊かさと地上のどこかでは「すべりひゆの汁」を飲む人々のいることを忘れてはいけないと思うのです。
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