<2022.9.25>
文月や 古き聖書に わが名あり
もう少し いやもう朝か 秋の床
泣くことの 多き吾かと 思うかな 折々思う 雨あがる朝(道子)
観に行くは 難しきかな ふたりして 花火聞きをり 夕餉時なる
なすおくら じゃが芋かぼちゃ みな入れて 無月中頃 我が家の一椀
<2022.9.18>
柿渋し 暫し無口の 盆の皿
さえずりを 奥にて聞ける 老が家
畑中に こはぜを一つ 見つけたり 誰のものかは 知らずなつかし(道子)
白湯注ぐ 椀に灯の 揺れ動く ひと日の終はり 告ぐる直会
衣を干せる 妻を見てをり 危なげも なく扱へる 物干しの場
<2022.9.11>
どの本も 捨てるを惜しみ 秋涼し
秋の燈や 二つともして 聖書読む
加齢という 重く確かな 現身を身に かかえ生く あなたとわたし(道子)
手にあまり 目にあまりつつ 唐茄子の 蔓の茂みを 引きて秋なる
名を呼べば ただそれだけで 身の近に われに応ふる 妻のいる家
<2022.9.4>
大根を おろす音して 昼近し
唐茄子の 刃物を反す かたさかな
いきづまる 思いを少し かえたくて まくわ瓜むき 夫の名を呼ぶ(道子)
面白き ことのみあると 云ふやうな 話聲して 子らの通過す
とことはの いのちなりけり 今ここを 壁這ふ虫を 見つるわれはも
<2022.8.28>
虫舐めし 茄子も混ざりて 笊の中
珍しと 妻の指さす 芋の花
人参を まきて旱の のちの雨 土黒々と 芽立ち清けし(道子)
色薄く 底に残れる 珈琲を 啜りし後に 部屋の灯を消す
地に低く 幼く育つ 白百合の 健気に咲けり 透明な朝
<2022.8.21>
矢守ゐて 驚くもなし 古家かな
百日草 神とも語る 朝の露
いつかまた 義妹と交わせし 約束も いつかはいつか 待たるるいつか(道子)
黄と黒の 葉裏の虫は 蛾や蝶や 手出しはならぬ 昼の暑さよ
梢まで 登らず蝉は 鳴きにけり 程よきところ 得たる聲して
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