俳句短歌2021-7〜2021-9

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<2021.9.26>
目の前を 見しは現や 鬼やんま
次次と なすこと多し 長夜かな
自転車の 我を追い越し トンボ消ゆ 日脚みじかき 夕影の道(道子)
柿の葉を 踏みて步ける 樹の下に 熟れて色濃き 潰落柿
薄明かり すでに蜻蛉の 飛ぶ空に 明けるを待てる ものらゐしこと

<2021.9.19>
烏瓜 見上げるばかりの 髙さかな
宵闇や 主の十字架を 思ひけり
柿の木に 法師蝉 来ひとしきり 夏のおわりの 命はげしき(道子)
たはむれに はうき手に持ち はき集む 三和土の際に 蟲這ふを見ゆ
なす食べる 煮茄子燒茄子 なす食べる 酢茄子漬茄子 なす食べる夏

<2021.9.12>
秋霖を いづこに宿る 窗の蟲
聽く耳を 持てぞと聞けり 秋の聖日
何虫が 鳴きはじめしか 手をとめて 夫と語らう 畑くれなずむ(道子)
屈まりて 草引く妻の 背中を見つ 秋津飛ぶ空 見よと告げしむ
紫檀の木 裏枯れはてて 堅き枝の 折る音爽し 秋の深まる

<2021.9.5>
御言葉を めくる音する 夜寒かな
まだ早し 南瓜熟れるを 待つ夫婦
ささやかな 暮らしを支う 年金を 受けてながらう 日々の静けさ(道子)
聽くに君 老ひたる母に 改むる 住まひのかしこ なめらかにせむ
尺取の 泣くも笑ふも 身の丈と 決めたるごとく のばす細き身

<2021.8.29>
待ち望む 主の日は今と 夏の夜
夕立ちや 道行く人の 荒荒し
診察を おえし妻の身 気づかいて 手をとり歩く 人の足音(道子)
妻の歌 聞くその時に 歌人の 夫にあらざる われのあらはる
眞夜中に 雨打つ音に 目覺めしを 朧に消へし 夢とも云へず

<2021.8.22>
教会の 友集まれり 冷し麦
ふきみずや 妻と座れる 縁の石
隣り家の 陰に入りて わが家は 夏の日ざしに 息をしており(道子)
もの賣りの 聲をや聞かむ 畑中に 息ととのへる 夏の夕暮れ
茄子植へて 胡瓜育てし わが畑の 人の畑とは 違ふ夏空

<2021.8.15>
ぼうふらが 思い出すよに 立ち泳ぐ
このところ 姿も見せず 靑蜥蜴
公園の ベンチを猫が ひとりじめ 我を見あげて ながあくのびをす(道子)
捨て置けば 人に踏まるる 折れ百合を 水に活ければ 夜に咲きをり
あらかたの 稔りは終へて 靑き實を 幾つか殘す とまとの枝先

<2021.8.8>
のぼる葉を 裏から見るや 窓の蔦
鎌失せて 小屋を探せる 暑さかな
夫の呼ぶ 声に目覚めし この日々を いとしと思う いのち尽くまで(道子)
貝殼の 振ればからから 音のする 小さき甁の 中の海原
獨り居て 夕餉の椀に 畑の實を わずかに摘める 妻を待ちをり

<2021.8.1>
夏草の 根の手ごわさや 人の性
これもまた 確かなことぞ 茄子枯るる
意のままに ならぬ世なれど ワクチンを 受けてようやく 髪ととのえる(道子)
食べるかと 胡瓜を盛れる 靑小皿 持ち來る妻の 足音聞く午後
網籠に 溢れてトマト 三つ四つ 熟し色待つ 水屋の木棚

<2021.7.25>
夏衣 この部屋だけを 行き来して
雷鳴や ふんぎりつかぬ ほどな距離
つゆあけの 軒にすだれを 立てかけて 夏の日ざしの 影は色濃し(道子)
茄子胡瓜 いんげん南瓜 隼人瓜茗荷 玉葱胡麻 韮とまと
賣棚に 昔のままの キャラメルの 箱が竝ぶと 妻は教へる

<2021.7.18>
茄子漬や 一皿競ふ 妻の居て
ここまでを 讀み來たりしや 紙魚の蟲
つばくらめ 競うがごとく 巣をはなれ 飛び交う朝の 空の高さよ(道子)
妻が云ひ われは鐮もち 草を刈る 針のごとくに 細き地の草
縫物は 得手ではなしと 云ふ妻が 下着繕ふ 短夜暑し


<2021.7.11>
青芝や こはごは歩く ぶちの猫
一線を こへる夢みし 梅雨の朝
切もなく 草ひくつゆの 畑なか 土にまみれて 遠雷をきく(道子)
一雷の 閃く空に 今日われは ワクチン接種と いふを受け來し
われに問ひ 來れるものぞ 小雀に 與ふる稗の 粒こそあらな

<2021.7.4>
五旬節 老いのひとりを 祝ひけり
水蟲や 妻に足出す 夜の居閒
置き去りに されし子猫に 幸運と いう名をつけて 友は手をのぶ(道子)
雨漏りて 器に受ける 生まれ家の 水屋の牀に 祖母はゐませり
鄰人と 語らふ妻の 聲聞ける 書齋の外に 朗らかなる朝

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