<2021.6.27>
杖までは 育てぬつもり あかざ拔く
新じゃがや 茹でたて喰らふ 書齋かな
採りたてを 甘酢につけた ラディッシュの 色あざやかに 梅雨のはじまり(道子)
われはここ 妻はむかふに 草を拔く 聲とどかぬも ふたり草拔く
雨音に 空を告げれば 妻たちて 道の濡れるを 窓に見てをり
<2021.6.20>
草むしり けら鳴く声の 昼下がり
蚊を叩く 音再びの 夜に入る
みてくれし 医師とわれとは 同病と 知りてかわせる 午後の診察(道子)
書齋には 掃除に入れる 妻がいて カウチを机に ものを書きゐし
雨樋を 漏れて雫の 地を叩く 音など聞きつ 眠待つわれか
<2021.6.13>
夏近し 目覚め早まる 床の中
外見へて 破れを知れる 網戸かな
物事は みなアンダンテ すこやかに 息ととのえて 見る日新し(道子)
はうぢぁくの 舐めしトマトの 色よくて 惜しみて捨てる 畑の塵山
じゃこ入りの 大根下ろしの 一鉢を 妻はつくれり 諍いの夜
<2021.5.30>
一株の 石楠花ありて 四季の庭
柿若葉 去年の不作を 何とする
病み臥して 重き心をかかえつつ 笑顔を見せる 友は愛しき(道子)
明日には 月を見ませう 滿月の 庭に茣蓙など 敷きてみませう
枕邊に 雨の音して 俄にも 訪れ來る ものやありなむ
<2021.5.23>
歳時記を 変へてみやうか 旱梅雨
雨蛙 記憶の淵を 鳴きにけり
用もなく 夫に呼びかけ 言(こと)かわし 心に遊べる 雨の一日(道子)
卸戸を 音たておろし 小夜月の あかりを知らで 眠るわれかも
安否問ふ 文したためし わが身にも 健やかなりや 聲かけにけり
<2021.5.16>
一口の 珈琲殘し 梅雨の月
杓の水 畑黑黑と 五月尽
四つある 時計の針が みな違う それもまたよし 二人のくらし(道子)
郵便夫 文落としゆく 音すなり すぐには立たぬ 春の夕暮れ
芦原の 二頭の蝶の 羽づかひを 共に魅入れる われら夫婦は
<2021.5.9>
食べかけの 菓子に戻りき 初夏の蝶
ふて寝する 肘の痛さや 走り梅雨
泣くことも 笑うことにも くもりなき よわいとなれり 夫ありてこそ(道子)
老いるとは 畑に咲きゐし 埜の花を 隅の空き地に 移すわれかも
葱苗の 植へあと見れば 曲折の ま直ぐにあらぬ われと云ふもの
<2021.5.2>
しばらくは ながめてゐやう 庭の月
麦藁帽 とりに戻れる 青き空
両の手に 孫連れだちて 隣り家の 朝あわただし 今日は祝日(道子)
一瞬の 空をよぎりし 黑影を つばめらしきと 妻と語らふ
蒸しタオル しつかりふけと わが顏を 妻は見てをり 赤子抱くごと
<2021.4.25>
ふえすぎて とればさみしき 東菊
春筍の めぐりめぐれる 老いの家
子ら残し 妹逝きし 夜のいかづちを 涙し思う 春のおわりに(道子)
行く春は 歌詠む時も 與へずに 花それぞれの 内にこもりし
夜更けて 妻と語らふ 言の葉の 不思議なること けふの壹日
<2021.4.18>
雨水の 流れに浮くや 初蛙
抜け落ちる 記憶の底や 忘れ草
うたに見る あまたの人の 豊かさに 比して貧しき 我がうた心(道子)
納豆を 糸引くまでに かき混ぜる 夕餉の祈りの 前のお勤め
垣根から 見ゆるわが家の 愛ほしき なれも老い來し われも老いゆく
<2021.4.11>
和へ物の 数ふくらむや 菜花摘む
語らへば 霞初月 耳慣れる
みるかぎり 家並みとなれる ふる里の わずかな土を 夫と耕す(道子)
朝どりの 野菜を持ち來て 君明日は 教會に行くと われに約しぬ
手を觸れば 妻も手を觸る 櫻木の 音靜なり 内に充つ花
<2021.4.4>
早咲きの つつじ間にあひ 受難節
枝見せて 花も見せたり 肩車
春くれば 病もいえて 会いたしと 友の文あり 細き筆あと(道子)
みつまたの 花咲く頃の 二荒の み山に遊ぶ 君をぞと知る
色深き 雨の降る日は 珈琲を 少し濃くして 妻と語らふ
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