俳句短歌2020-10〜2020-12

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<2020.12.27>
見ぬ間にも 山茶花花を 増やしけり
しばらくは 姿を見せず 寒雀
玄関に 夫を見送り つつがなき 一日を祈る 短日の朝(道子)
御言葉に 過ぎたる巻やは ありうべき 庵の屋根に おりる朝露
導きの 星あらはれし バビロンの 駱駝は伏して 草に眠れる

<2020.12.20>
遠吠の 夜に返せる 音冴へる
釘を打つ 音響きくる 冬旱
日に映えし 赤きもじみも 早ちりて 木々しずまれる 霜月の庭(道子)
朝霜に さはには聞かむ 鳴く鳥の なれにはなれの 幸にやあれな
教室の 後ろにありて われを見し 母のごとくに 見給ふや主よ

<2020.12.13>
南天や 耶蘇のリースに 色添へり
ことさらに 朽葉ふむ音 庭の柿
お茶をいれ 差し出す我に 「眠れたか」 問われる窓に 朝日さしこむ(道子)
荒き息 ととのへをれり 鍬止めて 畑に草引く 妻を探しつ
身をすくめ あかり燈れる 工場に 入り行く人あり 霜月寒夜

<2020.12.6>
山茶花が 二つ重なる 師走かな
ここまでは もたぬ風花 空に舞う
年々に 弱る足腰 なだめつつ 畑にいそしみ 命ながらう(道子)
熱き茶を 包み持つ手を 温めて 言葉を探す 仕事の合間
子鼠の 喰ひちらしたる 跡ありて 何を引きしか 近に見てをり

<2020.11.29>
久々に 友の来るや 冬紅葉
われに来て 乞ふことありや 冬の蝿
一人きく モーツアルトは 小春日の 色あやなせる 心地こそすれ(道子)
うちみれば 髪の毛白く なりし妻 よき方の耳 かたぶけてをり
芥火に 白き煙の 細細と のぼれる庭に あきあかね見ゆ

<2020.11.22>
年木積む 去年の高さを 忘れけり
白き歯を 見せて笑へる 冬の凪
つゆほどの 小さき幸も 夫とゆく 旅路の杖と なせる喜び(道子)
歌詠みの 畑にまつらふ 風吹きて 鍬を休める 土の黒さよ
こは美しき 山なるぞとは 人の云ふ わが幻の 山をこそ見よ

<2020.11.15>
炭焼きの 小屋とぞ今は 朽ちにける
萎へし指 開きて見せる 焚火かな
落花生 もぎつつ交わす たわいなき ことも楽しき 庭の木の下(道子)
冬の蝶 鉢の花にも 色添へて そこだけつくる 陽だまりの影
藁打ちの 音の記憶を 妻に聞く 思ひ思ひの 夜の合の手

<2020.11.8>
焼き芋の 昔話や 狐狸の里
ねずみの子 びらうどのごと 着ぶくれす
「ちょっと来て」 庭にさそわれ 満月の 光りの中に ことばなく立つ(道子)
よく見れば 美しかりき 虎の尾の 白き花咲く 土曜日の午後
面にうく 思ひを拾ひ 文箱に 収めるごとく 今日の一日

<2020.11.1>
拾ふ人 年毎あらた 黄落す
故郷の 道にわれなし 秋の沢
「ありがとう」 柩に呼びかく わが内に 不意にあふるる 労おおき母(道子)
満月を 見るためだけに 妻を呼び 庭にしばらく ふたりでをれり
何をしているのと 問へる幼子の 無垢なる顔を 照らす秋の日

<2020.10.26>
三日月に 何を隠さう 萩の夜
干し豆の 鞘の音聞く 思案かな
今日も又 老いし心の 糧として 歌つくりゆく 命つなぎて(道子)
小雨降る 外には出でず 妻ともに をるをよしとし 朝の静けさ
孫の手で 背中掻く妻と 降る雨の 明日は如何と 語る夕暮れ

<2020.10.18>
秋の蚊と 共に生きばや 家の中
秋雨や さはさは降りて 土に浸む
わが老いの 丈の高さに 木をつめて 少し広がる 秋を楽しむ(道子)
干し豆の 乾き具合を 庭に出る ただそれだけの 秋色の空
「明日には 柿の一つを 剥きませう」 渋抜け様を 見し妻の云ふ

<2020.10.11>
晩秋の 風干し竿を 抜けにけり
秋雨の 音聞きいるや 庭の虫
肉親の 又一人逝き さみしさの いやます車窓 小雨ふる朝(道子)
珈琲を かさねて飲める 日の正午 妻は 歌詠み われに聞かせる
われなれに 与ふるものの ひとつなし 云ひ切る父の われは子なりき

<2020.10.4>
雷鳴や 走りて去れる 老ひの肩
これならば 昼寝はなしか 秋の空
時じくの 青葉しげれる 秋すだれ 生きのびてこそ 今日の夕暮れ(道子)
夏の衣に 重ねるものを 妻に乞ふ 長月晦日 芋肥ゆる頃
真夜中に 布団を直す 妻の手を 知りつつ眠る 夜の静けさ

岡崎城,愛知県

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