<2019.9.29>
月の夜に 道説く声する チャペルかな
小さくも 秋刀魚は秋刀魚 煙立つ
いつしかに 色なき庭の おちこちに 秋涼青き ツルウリソウ(道子)
崩あ岸ずに立つ イエスの見やる ガリラヤの 海凪をりて 波静かなり
花見みにも 使へるやうな みづ色の 水筒もちて 草引きに行く
<2019.9.22>
芋の蔓 もう払へるか 人の畑
とりあへず 金縛りしてみる 蜥蜴かな
くらき雲 竹さわさわと 小雨ふる 光る家路を 夫と駆けゆく(道子)
肩車 してやらふとふ その理由を 童が気づくに あと三秒
夜の明けぬ 薄暗がりの 床にゐて 想ひ流れて とりとめもなし
<2019.9.15>
ガーベラの 一輪高き 野末かな
日の暮れる 刻の早さや 草むしる
あれも入れ これも入れたり 味噌汁の 何が足らぬか 母に及ばず(道子)
夕顔を 蒔きしことあり 今刻は 花開けると 妻と見しこと
爽やかな 風ともなへる 雨降りて こと改める 秋は来るかも
<2019.9.8>
名月や しはぶきひとつ 飛びにけり
羊歯の葉に 花は見ずとも 山の道
病みてより 一人散歩を する兄を 五時打つ鐘が 追いかけてゆく(道子)
馬鈴薯の 皮剥く妻の 肩越しに 夕餉の鍋の 音静かなり
公園の ベンチに座り 幼子の 目線に見へる 地面の高さ
<2019.9.1>
苦瓜の 花にほどよく 蝶遊ぶ
子らの踏む 草の深さや 蚯蚓鳴く
青々と 書斎の窓の 秋すだれ まだまだ小さき ゴーヤを数う(道子)
自転車に 乗りて詠へる 歌なれば 止まりて聞くに 堪へがたくあり
予報聞き 妻整へる枕辺の 明日のわたしは これを着るのだ
<2019.8.25>
あれも鳴き これも鳴き居る 蝉しぐれ
もろ濡れて 西瓜を抱へ 帰りけり
音のみの 花火も楽し 夕餉あと 夫と語らう 基地ありし頃(道子)
いつも鳴く 朝の蛙が 今朝はなく 歌詠む妻の 声の聞へる
青き実の 落ちてしまへる 幾つかを 木に戻れよと 足で押しやる
<2019.8.18>
着ぶくれて 動くに忙し 毛虫這ふ
居ると見せ 追へば消へ失す 蛍かな
竹藪を ふるわすごとく 油蝉 今日を鳴きつぎ 明日へつなぐ(道子)
あと先を 見ずに求むる それだけの ただそれだけの いのちなりけり
この世にて 美味しと思ふ 妻の手の 餃子を一つ 又一つ
<2019.8.11>
蝉飛びて 網にほどよき 高さかな
息するを 躊躇ふ暑さ 胡瓜喰む
花閉じて 朝の庭辺に ひっそりと 残り香ゆらす 匂い擬宝珠は
陽に焼けて 白く変われる 唐茄子は 味薄けれど 朝餉に色添ふ
居るものと 思ひてしゃべる 妻の声 遠くに聞けば 定かならずも
<2019.8.4>
鳴く蝉の 声さへ聞かず 暑さかな
行水に 釜茹での汁 継ぎ足せり
しゃぼんだま 我にむかいて 吹きくれし 幼心に 立ち去りがたし(道子)
はや妻の 丈をこへゆく 竹組に ゴーヤの蔓を 横に這わせつ
柘植の木は 一枝ごとに 立ち枯れて なほ我が庭に 一枝を残す
<2019.7.28>
葉に隠れ 顔覗かすや おくらの子
藪中の 百合は棘に 逆らはず
青葉風 そよと寄せ来る 玄関の 蚊取りのにおい 梅雨吹きはらう(道子)
さては又 いらぬ一言すべりたる 梅雨の晴れ間の 蒸し暑き午後
朝毎の 深呼吸する 妻の前 珈琲もてる われが横切る
<2019.7.21>
なれが名を 呼ぶ幸せや 金糸梅
濡れ縁に 片足落とす 将棋かな
解かれゆく わが裡にある 枷ひとつ 息ととのえつ 夕日に向う(道子)
黙すれば 知らずにすむに 残り菓を つまむや否や 妻迷ひ居るとや
我が家では 青磁と呼ばる 花刺しに 菫の花は 数日を過ごす
<2019.7.14>
尺取の 登りつくまで あと数歩
垣根刈る 容赦のなさや 夏木立
夕暮れの 竹むらゆらす 雀らは 何鳴き交わし 眠りに入らむ(道子)
白南風の すだれの端の 窓に寄る 過客の足の 過ぐる音やも
図書館の 郷土作家の 書架に立つ いつもとちがふ 妻の横顔
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