イスラエル人はカナン入国まで荒野に生きる遊牧民のような暮らしをしていた。耕作地を持たない遊牧民の暮らしは山羊、羊、駱駝などの家畜に依存したもので、穀物や果実などの農産物は家畜の肉や乳と交換で手に入れる貴重な食料でした。小麦で焼かれるパンや乾燥果実は自由に食べられるものではなかったのです。
カナン入国後、イスラエル人は占領した地を耕して種を蒔きますが、周辺の国の襲撃にあって根こそぎに荒らされるということが繰り返されます。（士師6:1~6）
イスラエル人はカナンの肥沃な土地に定住し食生活も豊かになるのはダビデによってイスラエル王国が建設されてから後のことです。それでも、イスラエル人の食生活の中心には山羊、羊、駱駝などの家畜がいたことに変わりはなかったようです。
山羊の乳
山羊、羊、牛、駱駝などの家畜からは毎日乳を搾ることができました。駱駝の乳はベドウィンの人々に限られて飲まれたようで、イスラエル人は主に山羊や牛の乳を飲んだようです。
「小羊はあなたの衣料を出し、やぎは畑を買う価となり、やぎの乳は多くて、あなたと、あなたの家のものの食物となり、おとめらを養うのにじゅうぶんである。」 箴言27:26~27 口語訳聖書
毎日「家のものの食物となり、おとめらを養うのにじゅうぶん」に絞れる山羊の乳ですが、暑い気候のなかではすぐに痛んで酸味を帯びてしまいます。酸味の強い乳も飲むことはできますが、保存用として「凝乳」が作られました。
凝乳とチーズ
「凝乳」は乳を発酵させたものでヨーグルトのようなものです。
「凝乳」は山羊の乳を皮袋に入れ、これを三本の丸太を組みあげて、皮袋を吊るし、前後に揺すって、乳が固まると分離した水を捨てて取りだします。「凝乳」をさらに水を抜いて固めたものに塩を加えたものが「チーズ」です。ヨブは神から苦しみを受けたて「あなたは私を乳のように注ぎ出し、チーズのように固めました」と訴えています。（ヨブ10:10）
エルサレムはシオンの丘の上に建てられ、町の東にケデロンの谷、南にヒンノムの谷、西にチュロペオンの谷に囲まれている。「チュロペオン」は「チーズ製作者たちの谷」の意味です。この谷でチースの市場が立ち、エルサレムの人々はチーズを買ったではないかと考えられています。
凝乳と蜂蜜
預言者イザヤはメシアの預言を語ります。
「それゆえ、主みずから、あなたがたに一つのしるしを与えられる。見よ。処女がみごもっている。そして男の子を産み、その名を『インマヌエル』と名づける。この子は、悪を退け、善を選ぶことを知るころまで、凝乳と蜂蜜を食べる。」 イザヤ7:14~15 新改訳聖書
「インマヌエル」と名づけられたメシアは成長するまで「凝乳と蜂蜜」を食べる、と預言されたのです。
「凝乳と蜂蜜」はヨブが苦しみを受けた身を「あなたは私を乳のように注ぎ出し、チーズのように固め、皮と肉とを私に着せ、骨と筋とで私を編まれたではありませんか」（ヨブ10:10~11）と訴えた言葉から、主イエスの御生涯に受けられる苦しみの象徴であるかもしれません。
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